あの世の世界
†Case19・あの世の世界†
私とブン太は、リュークを連れて亀裂に飛び込んだ。
やはりというか、亀裂の向こうはただ真っ暗闇が広がっていた。
ここは、霊界だね。
死んだばかりの魂がここへ来て、天国へ行くか地獄へ行くか裁かれる、そういう場所だ。
「ここは、どこなんでしょうか…」
不意に柳生君の声がして、私は慌てて振り返る。
そこには何故かブン太と柳生君がいた。
『な、何でここにいるの、柳生君』
私は彼に尋ねる。
というか、霊感の少ない彼にこの世界はキツイだろう。
実際柳生君は息苦しそうにしている。
霊感の少ない彼にこの世界の空気は毒だ。
真っ裸の状態で氷山に立っているのと同じ位、柳生君はこの世界では無防備すぎる。
「…私は貴女を信用しきっていません。だから着いて来ました。……本心を言うと、私よりも仁王君との付き合いが短いのに私よりも仁王君に想われている貴女は憎いです」
目を逸らしてそう言う柳生君に私は少し驚いた。
というのも、柳生君が私にそんな感情を抱いていたなんて知らなかったからだ。
普段の彼は何ていうか、そんな感情などおくびにも出さずに私のサポートをしてくれる。
だから、柳生君の本心を知って私は鼻の奥がツンとするのを感じた。
††††††††††
「そんな言い方ねぇだろぃ!?名前はな、テニス部のために自分の時間割いてまで霊祓ったりマネージメントしてくれたりしてんだぞ!?」
私のために怒ってくれるブン太は、今にも柳生君を殴りそうだ。
私は柳生君の胸倉を掴むブン太にしがみつき、ブン太を押さえる。
『ありがとう、ブン太。…柳生君、私貴方にそんな風に思われてるなんて知らなかった。でも、貴方の言ってることはまるで親を取られた子供みたいだよ』
滲む涙を必死に流さないように堪えながら淡々と言う。
私は短い期間だったけど、彼らのことが好きだった。
いや、今も好きだ。
会うまでは自分勝手なんだろうなと大嫌いだった。
顔がいいから、ちょっとテニスが上手いからって何でも思い通りに行くと思ってって、勘違るって思ってたから。
でも実際は皆テニスに真剣で、ちゃんと人の気持ちを考えて行動してた。
そんな彼らが好きなんだよ、私は。
私のことを疎ましく思う気持ちも、仲間を大切にする彼らなら仕方ないと思う。
だからね、柳生君のこともやっぱり嫌いになれないんだよ。
私に優しくしてくれたのは本当だから。
††††††††††
私は唇を噛み締める柳生君に近付いた。
『……柳生君が仁王君を大切に思ってる気持ちは私にだって分かる。でもね、私だって仁王君のこと柳生君にも負けないくらい好きだから引かないよ。それに、柳生君が私のこと嫌いでも、柳生君の優しい性格と仲間を思いやる気持ち、実は隠れて皆のサポートをしてる柳生君のこと、私は好きだから。君が私のこと嫌いな分、私が君のこと好きになるよ』
なんてウザイ女なんだろうか、私は。
柳生君に一方的な気持ちをぶつけてるだけだ。
…でも、伝えたい気持ちを知らんぷりできる程私は大人じゃない。
それに、何も言わなくても会ったばかりの人の気持ちを察せる程彼も大人じゃない。
なら、この結果が更に嫌われただけだとしてもよかったかもしれない。
伝えなくちゃ何も始まらないんだもん。
そう思った私は彼に気付かれないように私の霊力を分け与えて、二人を立ち上がらせる。
『とにかく、今は仁王君を捜そう。今だけは私のこと嫌いでも力を貸して欲しい』
じっ、と柳生君を真正面から見る。
柳生君が小さく頷いたのを確認した私は、ブン太と柳生君を連れてある場所を目指す。
ある場所とはもちろん、霊界の裁判官のいる所だ。
††††††††††
霊界とは、死んで間もない魂が来るところである。
私達は輪廻転生しているため、肉体は違っても魂は同じ。
だから魂は前世を覚えているのだ。
たまに夢の中で見たことない風景を見て懐かしいと感じたりしないだろうか?
あれは魂に焼き付いた前世の記憶であり、殆どの人は幼少の頃にしか見ない。
そして、その前世の記憶には必ず霊界も含まれている。
「なあ、名前。どこに向かってるんだよ?」
『霊界の裁判官がいるところ』
「霊界の裁判官?そんな人がいるんですか?」
『正しくは人じゃない。この世界の人達のことを人は霊界人と呼ぶんだよ。ちなみに霊界は死んだ人の魂が一時的にここに来て、霊界裁判官に裁かれるの。天国と地獄のどちらに行くかがね』
「地獄に行ったらどうなるんだよぃ?」
『さあ…。そこまでは知らないけど、転生出来ない道もあるんだろうね』
私は霊界の説明を軽くした。
ちなみにこの話しは、昔近くに憑いていた霊が言っていたことなので多分事実だろう。
††††††††††
『多分ここだね』
目の前にそびえ立つ大きな門に昔聞いた特徴と重ね合わせる。
霊界一大きな建物だって言ってたから、ここで合ってると思う。
戸惑う二人を無視して、私は建物の中へと入った。
「おや?人間かい?人間が何の用かね?」
『間違ってこの世界に来ている友達を捜してるの。大王様に会いたいんだけど…』
「人間が迷い込んでるだって!?それは大変だ!!直ぐに大王様に聞いてくるから、ちょっとここで待っていてくれ」
門番らしき人に事を簡単に説明すると、彼は慌てて大王様に話しに行ってくれた。
二人はというと、目を点にしたまま固まっている。
まあ、私は知識があるから驚いていないけれど、知識がなければ彼らと同じように驚いているだろう。
「お待たせ。大王様が詳しく話しを聞きたいらしいから、着いて来てくれるかい?」
直ぐに戻ってきた門番さんの言葉に私は頷き、固まったままのブン太と柳生君の手を引き、門番さんの後を追った。
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